「本物のがん」は手術では治らない
がんといえばすぐに手術を思い浮かべるほど、昔も今も手術はがん治療の主軸と勘違いされています。
医師から「手術で切除しましょう」と告げられ、「助かった」と早合点する患者さんも後を絶ちません。
しかし、手術などを拒んで無治療を選択し、これまでとあまり変わらない生活を送る大勢の患者さんを診ている私に言わせると、がんの手術ほど科学的根拠もなく無謀に体にメスを入れている手術はありません。
がんはすでに他の臓器に転移している「本物のがん」と、転移していない「がんもどき」の2つに大きく分けられる、というのが私の主張です。
では「本物のがん」は手術で根治できるのでしょうか?
仮に初回の手術で塊として存在するがんを、きれいに切除できたとしましょう。
しかし、すでに体の中のさまざまな他臓器へ転移している”目に見えない微小転移巣”は、放置されたまま残されます。
目に見えない微小転移巣はやがて発育し、目に見えるサイズまで増大した段階で「転移」「再発」と診断されます。
「転移」「再発」は、通常1カ所だけではありません。
ほとんどが何カ所にも出現します。
新たに出現した再発見のすべてを、改めて手術で切除することはできません。
モグラ叩きのモグラをいくら叩いても追いつかないのと同じ理由です。
なによりも患者さんの体力がもちません。
結局、初回の手術は無駄で、患者さんに苦痛と体力の低下、臓器の摘出による機能障害などをもたらすだけです。
「本物のがん」を手術で治すことは無理なのです。
では、他臓器へ転移しない「がんもどき」はどうでしょうか?
慌てて手術を受けなくても、ほとんどがただちに命にかかわることはありません。
最適と考えられる時期に、原発巣の切除など最小限の手術をうければ治癒するのです。
問題は他臓器へ転移している「本物のがん」か、他臓器へ転移しない「がんもどき」か、どちらであるのか分からないケースが多いことです。
本来なら、それを見極めるため、経過観察をすればいいのですが、「他の臓器へ転移していない早期がんだから手術で治せます」と医師から強く勧められ、すぐに手術を決めて後悔する患者さんがどれほど多いことか。
しかし、手術の段階で「他臓器への転移が認められない」といっても、現行のCTやMRIなどの画像検査機器で発見可能なサイズに育った転移巣が見当たらない、というだけの話です。
直径1ミリの微小転移巣は100万個のがん細胞から形成されています。
いまのところ直径1ミリの微小転移巣を発見できる高精度の検査機器は開発されていないのです。
そのため「手術で治る」と言われたのに、術後しばらくして他臓器に転移・再発する患者さんが少なくないのです。
手術によって体力や抵抗力などが損なわれ、結果的にがんの進行を促進させ、耐え難い痛みや機能障害を被っただけという患者さんがあまりに多いのです。
重要なのは「手術可能な早期がんだから」と医師から説得されても、決して慌てて手術を受けてはいけない、ということです。
「本物のがん」であれば、すでに他臓器に転移しており、残念ながら現在の医学で治す手立てはありません。
根治を目指す手術は患者さんに苦痛と臓器摘出による障害などをもたらし、本来の寿命を縮めてしまうことは間違いありません。
しかし、「がんもどき」であれば、今後も他臓器へ転移することはありません。
心配は無用です。
ただし、私はがんの手術がすべて不要である、と言っているのではありません。
「本物のがん」でも「がんもどき」でも、なんらかの症状が存在し、その症状の改善を目的とした手術を行けるのはベターな選択だと考えています。
たとえば、膵臓がんでなくなられた昭和天皇は再び食事がとれるようになり、公務に復帰されたことは周知の事実であり、そのうえ延命効果もありました。
こうした手術はきわめて有効な治療法です。
近藤誠
1948年 東京生まれ
慶応義塾大学医学部放射線治療科講師
がんの診断と治療を専門とし、日本における乳がんの乳房温存療法のパイオニアとして知られる。
2010年12月に6年ぶりの書き下ろし「あなたの癌は、がんもどき」(梧桐書院)
2011年5月に「抗がん剤は効かない」(文芸春秋)を出版した。
2011年7月26日 日刊現代より