健康コラム

乳がんの真実

「非浸潤性乳がん」は乳腺症の一種で本物のがんではない

 

がんには現在の医学で治せない「本物のがん」と、慌てて治療しなくても命を落とすことのない「がんもどき」の

2種類があります。

「がんもどき」の代表ともいえるのが「非浸潤性乳がん」と診断され、無治療のまま2011年で20年目を迎えられた平間恵子さん(66歳/仮名)のケースを紹介しましょう。

現在、「乳癌診療ガイドライン」(日本乳癌学会)では、乳がんを「浸潤性乳がん」と「非浸潤性乳がん」の2つに大きく分類しています。

乳がんは乳房の乳管や小葉を形作る細胞から発生します。

乳管や小葉の周りを取り巻く基底膜を越えて、周囲の組織へ浸潤していくのが「浸潤性乳がん」です。

一方、がん細胞が基底膜を越えず、乳管や小葉の中にとどまっているのが「非浸潤性乳がん」です。

平間さんは、ある大学病院で検査を受けたところ、左の乳房に石灰化が見つかり、切開生検によって「非浸潤性乳がん」と診断されました。

1990年のことです。

左乳房の乳首の下方に、約3cmの範囲でがんの乳管内進展が認められたのです。

ただちに手術による乳房全摘を強く勧められたものの、切らずに治す方法はないかと考え続けた平間さんは、翌々年(92年)に私の外来を訪ねてこられたのです。

乳管や小葉の中にとどまる「非浸潤性乳がん」は、乳管の中をはうように広がることもあります。

しかし、はっきりしているのは、その周囲の組織への浸潤がなければ、他の臓器へ転移もせず、りんp-あとてもがんとはいえないということです。

恐らくこれは女性ホルモンに対する反応が、ある特定個人に強く出たもので、乳腺症の一種と考えられます。

これは私だけの考えではありません。

世界に先駆けて乳房温存療法を始めたイタリア人外科医も、「非浸潤性乳がん」という用語を廃し、良性病変を意味する用語へ変更することを提案しています。

にもかかわらず、なせ「非浸潤性乳がん」を手術で切除しようとするのでしょうか?

ひとつは、非浸潤性の腫瘍がほとんどなのに、一部でも浸潤しているところが認められると、近い将来、浸潤・転移する可能性がなくはない、とされるからです。

もうひとつは「非浸潤性乳がん」がいずれ浸潤性乳がんに変化する可能性がある、という理由からです。

しかし、可能性を言い出したら切りがありません。

いずれもどのくらいの可能性があるのか、それを科学的に検証しなければならないのに、一切の検証を抜きに手術による切除などが行われているのが現状なのです。

私はそうしたことを平間さんに説明したところ、彼女は無治療のまま経過観察を続行すると決められたのです。

重要なのは無治療・経過観察を積み重ねられてきた平間さんの「非浸潤性乳がん」に、乳管周囲への浸潤や他臓器への転移がまったく認められないことです。

もちろん、乳房の凝りやへこみ、乳房周辺のリンパ節の腫れなどの症状もありません。

そうした事実を踏まえると「非浸潤性乳がん」の発見後、時を置かずに手術で切除してしまうのは、それが”過剰治療”であることを隠す証拠隠滅工作でもあると考えざるを得ないのです。

もうひとつ重要なのは、マンモグラフィー検診によって「非浸潤性乳がん」が数多く発見されていることです。

米国ではマンモグラフィー検診で発見される乳がんの20~30%が「非浸潤性乳がん」です。

日本でも10%を超え、手術による切除など何らかの治療を受ける女性が年を追うごとに増加していることです。

「非浸潤性乳がん」は「がんもどき」以外のなにものでもありません。

奥様やお嬢さんが乳がん検診で「非浸潤性乳がん」と診断され、手術による乳房切除などを勧められたら、断固、反対されるとよいでしょう。

 

近藤誠

1948年 東京生まれ

慶応義塾大学医学部放射線治療科講師

がんの診断と治療を専門とし、日本における乳がんの乳房温存療法のパイオニアとして知られる。

2010年12月に6年ぶりの書き下ろし「あなたの癌は、がんもどき」(梧桐書院)

2011年5月に「抗がん剤は効かない」(文芸春秋)を出版した。

 

2011年10月4日 日刊現代より